恋人がサンタクロース? =1=
「はぁ~……」
私は、今夜もう何度目かわからない溜息を吐いた。
……なぁんか、虚しいのよねえ。
今日はクリスマス。
世間の恋人達はきっと、それぞれに甘い夜を過ごしているはず。
それなのに、私ときたら。
テーブルの上には、毎日御用達のデリからクリスマス限定で売り出されたターキー入りのディナーセット。
料理も容器も結構凝ってるし、これはこれでロマンチックな演出の中で食べればそれなりにムードのあるものになっただろう。
でも、私が今問題にしているのは自分の夕食のことじゃない。
重要なのは、こういうものをひとり寂しく食べてるってこと。
去年は、シングル同士だった有香と、この部屋で仕事や同僚の愚痴を言い合い、彼氏にしたいような男が周りにいないことへの不平を託ちながら、朝まで飲み明かした。
これで私がまだ本当にシングルなら、今のこの状況だって大人しく受け入れただろう。
それがそうじゃないから問題なのだ。
私には好きな人がいる。
彼も私を好きだと言ってくれている。
つまり相思相愛なわけで、きちんと恋人としてお付き合いしているつもり。
だったら、その人と一緒にクリスマスを過ごせば良いじゃないかって、思われるかも知れないけど、それができていれば私もこうしてひとりで悶々とはしていないわけで。
彼と私は恋人同士である前に、教師と生徒という関係でもある。
もちろん、周囲の人たちには内緒だ。
女の子にとても人気がある彼は、周りから余計な詮索をされないためにも未だにフリーを装っていて、だから今日も、取り巻きの女の子たちに誘われて出かけてしまった。
電話でその話をしたときは、「渋々だよ」と笑っていたけど本当かどうかわからない。
彼も若い男の子なのだし、女の子に囲まれて嬉しくないわけはないはずだ。
そんな想像をすれば私だって良い気分はしないけど、年上のくせにつまらないやきもちをやいていると思われたくなくて、強く反対はできなかった。
だけど、誘われてホイホイでかけていく翼君も翼君だ。
付き合いだしてから初めて迎えるクリスマスなんだもの、なんとか口実を作って断ってくれたって良かったんじゃない?
恋人達にとって、バレンタインとクリスマスとお互いの誕生日は、やっぱり特別なもの。
好きな人と過ごしたいと思うのは、自然な気持ちの流れでしょう?
なんて……こんなこと、彼に面と向かっては言えないけど。
私は、目の前に並んだ料理をフォークでつついた。
物思いに耽っている間に、それはすっかり冷たくなってしまっていた。
「はぁ~……」
食欲の失せてしまった私は、フォークを放り、カーペットの上に仰向けに倒れた。
「翼のバカ……」
今ごろ彼は、同じ年頃の女の子たちとワイワイやっているのだと思ったら、悔しくて悲しくて寂しくて涙が出てきた。
どうして私……こんなに辛い恋してるんだろう。
どうして、焦がれるのを止められないんだろう。
どうして、嫌いになれないんだろう。
どうして、こんなにも好きなんだろう。
翼君の、こと……。
もう1度、大きな溜息を吐きかけたとき、電話が鳴った。
翼君からだ……。
急いでボタンを押しかけて、少し戸惑う。
電話の向こうから、賑やかな喧騒が聞こえてきたら、落ち込んでしまいそうな気がする。
これ以上、惨めな気持ちにさせられるのは嫌だ。
でも……。
耳は、彼の声を聞きたがっていた。
身体中が、彼を恋しがっていた。
私は通話ボタンを押し、電話を耳に押し当てた。
つづく


2016年12月22日 HAPPY-GO-LUCKY 番外 トラックバック:0 コメント:0