教室の喧騒 =2=
「ね、愛美……どうしちゃったのよ、柚月?」
席に戻ると、エリカが空いた柚月の席に移ってきて、聞く。
どうしちゃったと言われても、あたしにだって答えようがない。
「具合はね、授業が始まったころから悪そうだったよ」
「う~ん、それはあたしも見ててわかったけど。問題はそのあとじゃん?」
「そうだよねえ、あれはちょっと、……ヤバイよね、やっぱり」
あたしとエリカは、顔を見合わせて同時に溜息を吐いた。
柚月は、必死で隠してるつもりかも知れないけど……。
あたしもエリカも、柚月の付き合ってる「9歳年上の彼」がアキちゃんだってこと、もうだいぶ前から気づいてた。
さっきも言った通り、柚月は本当に思っていることがそのまま表情に出る。
そして、アキちゃんを見つめるときの彼女は、まさに恋する乙女の顔をしてる。
一方のアキちゃんも、授業中にさりげなく柚月を目で追ったりしてるし、たまに視線絡めてらぶらぶモード発動されちゃったりした日には、気づくなと言う方が無理だ。
あたしとエリカだけじゃない、クラスの半数はとっくに気づいてる、……はず。
それでも、その公然の秘密が秘密のまま守られている理由は、恋の渦中にある2人があんまり幸せそうだから。
加えて、うちの学校は初等部から大学までの一貫教育を敷いているし、一部の外部生を除けば、同級生のほとんどが幼馴染みたいなものだから、身内を応援するみたいな気持ちもあると思う。
こういう校風、あたしは結構好きだ。
それにしたって、さっきのあれは……アキちゃんもやりすぎだったんじゃないかなあ。
保健室に向かう途中で、他の先生にでも見咎められたら、何て言い訳するんだろ。
結局、柚月が教室に戻ってきたのは、お昼休みももう終わるころだった。
ずっと保健室で寝てたって彼女は言ったけど、それにしちゃ、さっきから欠伸ばっかり。
こうなると、否が応でも想像しちゃう。
あれから、アキちゃんと柚月が保健室で何をしてたか、とか。
しかも、校医の松島先生は、私学協会の会合とかで、昼前から留守だったそうだし。
……ああ、もうっ、こっちの顔が赤くなるっていうの!
「でも、アキちゃんが柚月を抱き上げたときには驚いたよ」
恍けてそんな風に言ってみると、柚月はちょっとだけ視線を泳がせた。
本当に、わかりやすすぎて笑いを堪えるのが大変だ。
「……そう?」
「だって、教師が生徒をお姫様抱っこだよ? 普通はしないでしょ」
わき腹をつつかれた柚月が、完熟のトマトみたいに赤くなる。
これじゃあ、黙ってても白状してるのと同じ。
「柚月も、内心ラッキーとか思ってたんじゃないの。お姫様は、王子様に連れられて、お城でらぶらぶしましたとさ、な~んてね」
「そ、そんなわけないでしょ、もう」
バレバレなのにムキになって否定するところが、同性ながら可愛いなと思う。
やっぱり柚月がこういう子だから、守ってあげたくなっちゃうんだ。
これが男の人なら尚更だろう。
アキちゃんも、柚月にメロメロなのに違いない。
もう少しだけ、知らないふりをしておいてあげようかな……。
その代わり、アキちゃんには是が非でも柚月を幸せにしてもらわないと。
もし、柚月を泣かせるようなことがあったら、あたしもエリカも絶対に黙ってない。
大事な親友を託すんだから、そのくらいの覚悟でお願いしますよ。
口止め料にしちゃ、安いもんでしょ。
ね、荻野先生?
= fin =
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2016年09月16日 ありふれた日常で30のお題 トラックバック:0 コメント:0