大好きなうた =4=
誰かが小さくふふっと笑う。
頬に触れる唇の、柔らかな感触。
あたしは夢見心地で目を開ける。
そして、そこに見知った顔を見つけてあれっと思う。
「せんせ、い……?」
「想像以上だったな、あんな顔してイクなんて」
そう言ってニヤリとされて、あたしは自分がここにいる理由を思い出した。
なんでっ、……なんであたし、こんなやつの腕の中でうっとりしちゃってるのよ?!
「ちょ、やだ、離してっ」
「今さら何を照れてるんだか」
慌てて目の前にある胸を押して真壁から離れようとするけど、そんなあたしの抵抗は呆気なく押さえ込まれてしまう。
真壁も、すでに服を脱いでいた。
程よく筋肉のついた胸。
隆とした二の腕。
少し視線をずらせば、引き締まったお腹と、その下の翳りが目に入る。
この身体に、今から、あたしは……。
「挿れてもいい?」
こんな場面でこんなことを聞くなんて意地悪だと思った。
もっと軽いノリで、雰囲気に流されるように始めてくれればいいのに。
そんな切なそうな顔をされたら。
「挿れたい、エリカに……」
いいよ、とあたしは小さな声で言う。
あたしも、彼が、具体的な言い方をすれば彼の持つ特殊な器官が、欲しい。
あたしは、自分の足の間に膝立ちになった真壁の、中心にあるものから目が離せない。
垂直よりも少し斜めを向いて勃ち上がったそれは、すごく大きくなっていた。
醜猥で、時おりぴくぴくと脈打つ様が滑稽で、なのにひどく脆そうにも見える、彼の一部でありながらまったくの別の生き物のような、彼の――。
「んん……」
真壁が入ってきた。
潤んだ肉の壁を擦り上げるように、ゆっくりと。
「エリカ……」
「んぅ、先生……」
抱きしめ合いながら、お互いを呼び合う。
まるで、恋人同士がするみたいに。
出会い系、で知り合った人と会うとき、多分他の誰もがそうするように、あたしは適当な偽名を使った。
行為の最中に名前を呼ばれても、それはあたしの名前じゃなくて、だから、実際にそうしてても妙にリアルさが希薄だった。
だけど、今、あたしはちゃんと自分の名前を呼ばれてて。
しかも、相手は自分の学校の先生で。
それって、あたしにとっては、有り得ないほど生々しい現実だった。
「あぁん、そこ……」
真壁の先端が当たる、さっき彼の指でイカされた場所だ。
でも、指なんかとは全然違う。
もっともっと大きくて、ずっとずっと硬い。
他人の一部が体内にある、貫かれてるって感じがする。
「イイ?」
あたしは答えずに、真壁の顔を見る。
そして、慌てて目を伏せる。
やだ、そんな、……そんな顔、反則だよ……。
真壁は、少し眉を顰め気味にしてあたしを見下ろしていた。
何かを耐えるみたいに苦しそうで、それでいて情欲に濡れたような瞳。
男の人でも、こんな色っぽい表情することあるなんて……。
つづく


2016年08月22日 ありふれた日常で30のお題 トラックバック:0 コメント:0