Love, Truth and Honesty =1=
眩しいほどに輝くライト。
女の子たちの黄色い歓声。
ステージには、彼女たちの視線を一斉に集めるひとりの男性。
彼は、きらきらと光る汗を散らしながら、歌い、踊り、舞台の上を駆け回った。
彼ひとりの存在が、会場を埋めた数万の人の心を惹き付けて離さない。
彼は、文字通り「カリスマ」だった。
突然、会場の照明が一気に落とされ、一筋のスポット・ライトに浮かび上がる彼の姿。
そして、彼は歌う。
よく通る澄んだ声、独特のビブラート。
なんて素敵なんだろう……彼の歌を聴くたびに全身が痺れる。
やがて、彼が手を伸ばす。
暗闇に包まれた観客席で、胸を震わせるあたしに向かって。
――ずっとずっと、君を探していた。
ああ、嘘みたい。
こんな幸せ、あってもいいのかな。
これが夢なら、絶対に覚めないで欲しい……。
ジリリリリ――。
無粋な目覚ましのベルに、あたし、樫村藍(かしむらあい)ははっと目を開けた。
……やっぱり、夢か。
嘆息して見上げたそこには、愛しい彼の優しい笑顔。
「おはよう、蒼」
彼は何も答えず、ただ白い歯を見せて微笑んでいるだけだ。
なぜなら……それは、天井に貼り付けられたポスターだから。
天井だけじゃない。
あたしの部屋の壁という壁は、彼の写真やポスター、雑誌の切抜きなどで埋め尽くされている。
どこを向いても、大好きな彼と目が合うように。
彼の名前は、鷹宮蒼(たかみやそう)。
歌手であり、俳優であり、雑誌の好感度調査でも抱かれたい男アンケートでもいつもダントツの1位、日本中の誰もが認める「国民的」アイドル。
あたしの、憧れの人。
今どき、アイドルに熱を上げるなんてって、友達はみんな笑うけど、好きなんだからしょうがない。
どんなに馬鹿にされても、この気持ちは止められない。
いくら想っても報われない人だってことくらい、ちゃんとわかってる。
だから、あたしは夢の中で彼に恋をする。
叶わなくても、届かなくてもいい……ただ、想っていたい。
彼の歌を聴くと、元気になれる。
彼の姿を目にすると、自分も頑張ろうって気持ちになれる。
蒼は……あたしの生命力の源だから。
つづく


2006年07月27日 Love, Truth and Honesty トラックバック:- コメント:-