know thyself =20=
朝、目が覚めて、自分が誰かの腕の中にいることに気づく。
男らしく隆とした肩に頭を預け、首の下を通った腕を枕にして。
顔を少し上向けると、すぐ側に大好きな人の寝顔があった。
あたしが、こんな風に誰かと一緒に穏やかな朝を迎えることができるなんて……。
嬉しい……なんだか嘘みたい。
でも、昨夜のことは夢じゃなかったんだね。
あたしたち、ちゃんと結ばれたんだよね。
ねえ……直人?
顎の先に軽く口づけたら、彼は目を閉じたまま寝言のようなものを呟いた。
そのまま首筋と、耳のうしろにも唇を這わせていくと、擽ったそうに首を竦める。
そんな彼の反応がものすごく可愛いらしくて、あたしはもっとそれを続ける。
昨夜はあたしをちゃんと抱きとめてくれた逞しい胸、そこを指でなぞっていくと、先端の蕾がつんと勃った。
男でも、乳首が感じるって人は結構多い。
先端を人差し指で捏ねると、案の定、彼は切なそうに鼻を鳴らして目を開けた。
「ん、ん……あれ、美桜……? 何やってんだ、朝っぱらから」
「別に? 直人の寝顔があんまり可愛いから、ちょっと悪戯してみただけ」
「悪戯って、おい……ああっ」
その可愛らしい蕾に軽く歯を立てると、直人がびくんと背中を反らせる。
「うふふ……直人、反応が女の子みたい」
「く、はっ……うるさ、いっ」
「んもぉ、そういう直人も、可愛くて好きっ」
首に腕を巻きつけてぎゅっとしがみつくと、彼は嘆息しながらも抱きしめ返してくれた。
「直人のにおいがする……」
「あんまりくっつくなよ。汗臭いから、俺」
「そんなことない。目の前にいる直人があたしの空想の産物なんかじゃなくて、ちゃんとした生身の人間だって実感できるの、嬉しい」
そう言って彼を見上げたらばっちり目が合った。
「あんまり可愛いこと言うなよな」
「……なんで?」
「俺の方が、……夢中になっちまいそうだから」
少し眉を顰めて苦笑する彼。
瞳の中に、あたしが映ってる。
大好きな人に抱きしめられて幸せそうに笑ってる。
ああ、もう……胸がきゅんとしちゃう。
「直人……あたしのこと、好き?」
「……昨日から何回同じこと言わせんだよ」
「だって、聞きたいんだもん。ねえ、好き?」
彼から返ってきた答えは、言葉じゃなくて髪をそっと撫でながらの優しいキス。
「今さら言わなくてもわかってんだろ?」
「わかんないよ、ちゃんと言ってくれなくちゃ」
言われて嬉しい言葉は、昨夜も愛し合っている最中にいっぱい聞かせてもらった。
あたしも、たくさん好きって言ったと思う。
でも、やっぱりベッドの中の睦言でない台詞もちゃんと聞きたい。
「やっぱ面倒臭いな、女って」
顰め面でそんなことを呟きながら、あたしの頭をぐいと胸元に抱き寄せて。
「好きだよ、美桜」
甘く囁かれて涙が出そうになる。
このまま時が止まってしまえばいいのに。
「あたしも、好き……」
あたしたちは、強くお互いを抱きしめ合う。
肌と肌をピッタリと合わせて、鼓動すらも溶け合ってしまうくらいに。
かりそめでもまがいものでもなく、静かな糸で繋がれたあたしたちの絆。
やっと手に入れた、純粋にあたしだけを求めてくれる人。
あたしでも誰かに愛される資格があるって、教えてくれた優しい人。
ああ、神様……。
こんなあたしに直人を会わせてくれてありがとう。
こんなあたしにチャンスをくれてありがとう。
あたし……絶対に彼の手を離さない。
こんな幸せ、1度でも逃したら、きっと2度と巡ってこない。
つづく


2016年04月02日 know thyself トラックバック:- コメント:0