君の目を見るとダメと言えない =6=
翼君は、執拗なキスを続けながら、胸の辺りを弄(まさぐ)りはじめる。
私は少し抗ってみるけど、彼の長い指に両手首を一緒に掴まれて、さらにドアに押し付けられる。
見た目だけが可愛い安普請のドアが、2人分の体重を掛けられて軋んだ。
「ん、や……」
「何が、嫌?」
意地悪く、翼君が聞いてくる。
「だって、玄関先でこんな……」
「そう。じゃあ、場所を変えればどんなことをしてもいいの?」
「そ、それは……」
翼君は、本当に人の言葉尻をとらえるのが上手い。
それは頭の回転が速くて会話が弾むってことに繋がるのだけど、同時に人の揚げ足取りも上手いってことにつながる。
私なんて、彼よりも年上のはずなのに、いつだって簡単に言い負かされてしまう。
それが情事の最中であれば、私には余裕なんて全然ないから尚更だ。
「先生、いい匂いがする……」
彼は私の首筋に顔を埋めて、くんくんと鼻を鳴らす。
それがなんだかとてもくすぐったくて、私は変に悶えてしまう。
「やぁん」
「かわいい声出しちゃって。もしかして、僕のためにお風呂でキレイにしたの?」
「そんなつもりじゃ……」
翼君の舌が首筋をなぞって、それから耳にふっと息を吹きかけられる。
「相変わらずつれない人だ。そこで『そうよ』って言ってくれれば、嘘でも嬉しいのに」
そう言って、翼君は私の頬や瞼や額にも軽いキスをたくさん落としてくる。
「もう……ダメよ、勉強しに来たんでしょう?」
「勉強? ああ、そう……そうだね、それじゃあ、しっかり勉強させてもらおうか」
グイと、腰の辺りを抱き寄せられた。
「先生の身体の隅々までを知りたいな。教えてよ、女体の神秘ってやつ」
「だから、そういう意味の勉強じゃな――」
翼君は、笑いながら軽々と私を横抱きにする。
信じられないくらい華奢な身体つきをしているくせに、どうしてこんなに簡単に私を持ち上げることができるんだろう。
きゅっと筋肉が浮いて硬くなった二の腕にドキドキしてしまう。
そのまま、狭いベッドの上に下ろされた。
「怒られたって、知らないから」
「誰に?」
「……斉藤さん……」
「なんで僕がエリカに怒られなきゃならないの。僕が誰と付き合おうと、あいつには関係ないことだよ。そもそも、どうして先生がそんなこと気にするの」
私は臍を噛む。
このもどかしい気持ちを、どうやって言葉にすればいい?
自分よりも5歳も年下の教え子に嫉妬してる、あなたを獲られたくない、なんて言えるわけがない。
「ねえ、僕とエリカのこと、何か誤解してない?」
「だって、実際に仲良く見えたもの、あなたと斉藤さん」
翼君が小さく嘆息する。
「僕とエリカはさ、何て言うのかな、幼馴染みたいなものなんだよね。お互いの母親が親友同士だから」
私が何も言わないでいると、翼君は私の髪を梳いてきた。
思わず眼を閉じてしまいたくなるほど、優しい手つきで。
「僕の母は園田の家を駆け落ち同然で出たあとも、エリカの母親とだけはずっと仲が良かったらしい。僕も、小さい頃はよく彼女の家に連れて行かれたし、両親が忙しい時には預けられたり、ご飯をご馳走になったり、ずいぶんと気にかけてもらって世話にもなった」
「そうだったの」
「小さい頃は、お互いに1番近くにいる異性って感じで、大きくなったら結婚しよう、みたいな話もしただろうけど、そんな子供の頃の約束なんて、大人になったら忘れちゃうもんだよ」
翼君は、無邪気に微笑みながらそんなこと言うけど、私にはそうは思えなかった。
「でも、斉藤さんはそうでもないみたい。彼女、きっと今でもあなたのことが好きだわ」
「それは僕も感じることがあるよ。でも、それが事実ならどうだって言うの? エリカが僕を好きだとしても、僕自身の気持ちはもう先生に向いてしまっているんだし。これは変えようがないんだから、今さら何を言ってもどうしようもないことだよ」
「だけど……」
「だけど、何? かわいい教え子の女子生徒のために、自ら身を引く? 僕の気持ちなんてお構いなしに、僕らの愛まで終らせようっていうわけ?」
翼君が、珍しく強い口調で言う。
私を見下ろす彼のきれいな瞳の奥で、何かがチラチラと燃えているのが見えた。
「違う、私の言いたいのは、そんなことじゃなくて……」
「だったら、もう何も言わないで。今は僕のことだけ見て、僕のことだけ考えてよ。せっかく2人きりでいるのに、余計なことで煩わされたくない」
余計なこと。
そんな言い方で片付けてしまって良いことなのだろうか。
確かに、私は翼君が好きで、誰にも譲りたくないと思ってる。
けれど、そんな私の我がままで、一途な女子生徒の気持ちを踏みにじっても構わないと言える?
「まだ何か考えてる」
「ごめんなさい、滝沢君。でもね、やっぱり私は教師なのよ。どんなことがあっても、それは曲げられない事実だわ」
「わかってるさ。そんなことは、百も承知で好きになったんだ。僕にとっては何の障害にもならない。それに……」
翼君は、私の着ていたカットソーを上半身から抜き取った。
「先生は、教師である前にひとりの女だ。かわいくて愛しい、僕の大事な恋人」
そして、露わになった胸を激しく揉まれる。
先端の蕾を指でつままれ、擦り上げられる。
「あぁんっ」
「かわいいよ、美穂先生。そんな顔、教壇で見せたりはしないでしょう? そんな声、他の生徒に聞かせたりはしないでしょう?」
「しな、い……滝沢君だけ……あなただけが、私のこんな姿を知っているの」
翼君の掌が頬に触れる。
「だから、僕の前ではただの女でいればいい。他のことなんて考えないで。先生は僕のものだ。それ以外のことは、僕が全部忘れさせてあげる。いいね?」
その言葉はまるで魔法のように、しみじみと私の心に染みていく。
私は頷きながら、彼の頭をかき抱いた。
「好き……」
僕も、と囁いた彼の唇が胸元に降りてくる。
軽く挟んでは放し、舌の先で撫で、時おり歯を立てて甘く噛む。
「あっ、あんっ」
翼君は胸を責めながら、器用に下半身も裸にしてしまう。
「ふふ……もう、こんなになってる」
翼君の指がソコを上下すると、くちゅくちゅと耳を塞ぎたいほどの音がする。
充血して勃ち上がった芽に指先が当たる度に、ぶるっと腰が震えた。
「ひゃんっ」
「先生って、反応がいつも初々しいよね……すごくかわいい」
翼君は楽しむようにそれを続ける。
弾いたり、撫でたり、擦ったり……敏感な芽の部分ばかりを、好きなように弄ばれ、執拗に嬲られて、私は堪らずに声を上げた。
「あぁあ、ダメ……それ、ダメっ」
「何がダメなの、ココ、こんなに大きくなってるのに……ホントは、イイんでしょう? 素直に言わないと、もっと苛めちゃうよ」
翼君が、再び乳房の先端を口に含む。
指は依然として膨れ上がった芽を捏ねながら。
「ああっ、も……やぁあっ」
そして、私は翼君の腕の中で下肢を痙攣させ、呆気なく達してしまった。
翼君は、ちゅと音をさせて私の頬に口づける。
「見ちゃった……先生のイイ顔」
「バカ」
私は恥ずかしくなって、彼のシャツに顔を埋めた。
どうして、いつもいつもこうなんだろう。
彼に抱きしめられると、頭の中が蕩けてしまったようになって、まともにものが考えられなくなる。
彼の与えてくれる快楽に翻弄されてしまう。
今だって、そうだ。
私はとっくに裸にされて、あられもない声を上げて、恥ずかしい姿を晒してしまったというのに、翼君はシャツのボタンさえ外してない。
どうして、いつも私だけ。
つづく


2012年12月29日 HAPPY-GO-LUCKY トラックバック:- コメント:0