beloved =30=
すでに闇に包まれた室内。
窓から射し入る仄かな月明かりに、絡み合う男女の姿が浮かび上がって見える。
静かな部屋に、甘さの滲む鼻声と、忙しない息遣い、唇を吸い合う音、そして、互いの身体が交わって立てる淫らな水音が絶え間なく響く。
うつ伏せにされた佐和子の白い背中に、幸太郎が覆いかぶさった。
臀部を引き寄せ、背後から一気に貫く。
「あ、んん……」
押し入る熱に、切なげな声を洩らす佐和子。
幸太郎は、佐和子をこうして抱くのも好きだった。
手のひらひとつで捻り潰してしまえそうなほど華奢なうなじを眺めながら、激しく腰をぶつけ自身の棹を熱い泉へと打ち込む度、喩えようもない征服感に浸ることができる。
獣のような姿勢で、愛しい少女の身体を蹂躙する、その行為は、彼の中に潜む倒錯的な欲求をこの上なく激しく満たした。
倒錯――。
愛しいが故に、滅茶苦茶に壊したくなる気持ち。
彼女があまりにも従順だから、さらに貶めてやりたいと思う気持ち。
彼女を崇めるのと同時に、絶対服従させて自分の前に跪かせたい気持ち。
狂わされている、と彼は思う。
すべてを捧げ、従うような顔をして、実は彼を虜にしてしまった佐和子に。
若くして国内でも有数の企業の副社長を務める御曹司、ビジネスに関しては有能だが、それだけに人としての温かみに欠ける男……それが他人の評する幸太郎だった。
そんな彼が、10歳も年の離れた少女にここまで溺れてしまうなど、一体誰が想像しただろうか。
それは、多分……彼自身も思ってみなかった事態なのに違いない。
けれども、2人は今、こうしている。
誤解や行き違い、素直になれなかった夜、そして、2人の愛を試すかのような様々な出来事……この数ヶ月だけでもいろいろなことがあった。
それでも、2人は離れることができなかった。
否、むしろ何かひとつを乗り越える度に、2人の絆はさらに強いものになった。
幸太郎も、佐和子も、お互いがいなければ自らの存在も有り得ないというほど、相手を深く愛するようになっていた。
この世に、運命というものが本当にあるのなら、この2人の出会いこそ、そうと呼ぶべきものなのかも知れない……。
「んっ、……は、だめ、もうだめ……」
細やかな、けれど執拗で追い詰めるような愛撫と、求められるままに繰り返された結合で、一方の佐和子も、軽い絶頂に幾度となく達していた。
彼女にも、もう自分のソコがどうなっているのかわからない。
ただ、幸太郎と繋がっているその部分が熱くて蕩けそうだった。
確かに、今夜の幸太郎はいつにも増して激しく彼女を求めた。
今も、耐え切れず崩折れた上半身を、脇に手を入れて抱き起こされる。
彼の腿に乗せられる形になり、彼女は上半身を彼の胸に預けた。
「すげえ……ぐちゃぐちゃなのにキツイよ、お前の中……」
うなじに顔を埋めて囁かれると、それだけで背中がぞくぞくした。
迫り出した壁が彼を締め付けて、彼が洩らす切なげな吐息が肩口に落ちる。
こんな瞬間――幸太郎も感じている、気持ちよくなっている、自分の身体が彼を昂ぶらせている、そう実感できるこんな瞬間が、佐和子には嬉しかった。
「ああ……」
佐和子は、目を閉じて嘆息する。
幸太郎の手が、大きく広げられた腿の内側を撫でている。
「佐和子、……目を開けろ」
「ん……」
幸太郎に促されて瞼を開くと、いつの間にか、ベッドサイドのランプが灯っていた。
同時に、目に飛び込んできた光景に思わず息を呑む。
ベッドの右手は壁の一面がウォークインのクロゼットで、今はアコーデオン式の扉が閉まっている。
その扉のひとつに、大きな姿見がはめられていた。
ちょうど、ベッドの上の2人をしっかりと映しこんで。
佐和子の白い裸身と、背中から彼女を抱きしめる幸太郎。
胡坐をかいた彼の腿に、しゃがみこんだ格好の佐和子、そして、その中心で彼のものを深々と飲み込んだ泉までが、はっきりと見えた。
「あ、…やっ」
堪らず顔を背けようとした佐和子の顎を、幸太郎がつかみ、強引に前を向かせる。
もともと色白な佐和子だが、幸太郎の男らしい腕に抱かれていると、それがますます際立って見えた。
「見ろよ……自分が今、どんな格好してるのか」
「や、だぁ……」
「根元までしっかり咥え込んでるぜ。ほら、こんなにヒクヒクして……いやらしいな、お前」
確かに、いやらしい光景だった。
赤く濡れた花びらの真ん中から、怒張が生えているようだ。
しかも、泉はじゅくじゅくと蜜を吐き続け、それによって幸太郎のモノが白く汚されていく。
「だめ、だめ……こんなの見れない……」
「だめじゃねえ、しっかり見ろ」
閉じようとした腿を押さえつけた幸太郎の手が、さらにソコを開かせる。
「俺が、入ってるだろ?」
「う、うん……幸太郎が、あたしの中に……」
「俺、もう……お前以外の女と、こんなことする気ねえから」
軽く身体を揺すられるだけで、佐和子の身体の隅々にまで甘い痺れが広がる。
自分の中で体積を増す彼のモノが、本当に愛しかった。
「わかって、る……」
「俺が、こんな風に抱くのは、お前だけだから」
「うん、うん……」
幸太郎が自分を想っていてくれることは、佐和子にも痛いほど伝わってきた。
ただそれを上手く言葉にできなくて、彼女は必死に頷きを繰り返す。
「好きだ、佐和子……」
幸太郎の大きな手が、佐和子の小ぶりな乳房を包み込む。
手のひらでつかむように揉み、指先が蕾を引っ張り、弾く。
「んんっ、……や、あっ」
「お前のそういう声、最高……もっと啼けよ」
乱れた吐息とともに、耳に流れ込む舌。
ぴちゃと音をさせてそこを舐められると、肩がびくりと跳ね上がった。
「相変わらず感じやすいな、耳も……」
意地悪な含み笑いのあと、彼は佐和子の髪を鷲づかみにして、獰猛に唇を奪った。
激しく、深く、洩れ出る喘ぎすら吸い尽くすような熱い口づけ。
彼も、限界が近いのかも知れない。
幸太郎の鼓動が、早鐘のように佐和子の背中を打った。
「あっ、…こ、たろ……だめっ」
泉の上方、充血して尖った核を、幸太郎の指が左右に弾く。
佐和子の身体が淫猥に跳ねると、それに呼応するように内部が猛烈に狭まり、幸太郎も思わず切なげに嘆息していた。
「そこ、や、……変になる、お願い、やめ……」
「いいよ、なれよ。いっそのこと狂っちまえ」
鏡の中、幸太郎は艶やかに笑った。
眇められた目が、じっと佐和子に注がれている。
こんな痴態を見られているのがものすごく恥ずかしいのに、その反面では、佐和子自身でも信じられないくらいに感じてしまっていた。
「だめ、幸太郎……ホントに、も……っ」
激しく突かれているわけではなかった。
けれども、彼の体温、息遣い、香り……それらすべてが彼女の官能を刺激する。
それだけで、高みに到達してしまいそうなくらいに。
好きなのだ、と思う。
彼への想いだけで、胸が潰れそうなほど苦しくなる。
自分を包み込む幸太郎のすべてが、佐和子には愛しくて堪らないのだ。
「好き……幸太郎、大好き……」
彼女の中で、逞しく力強いものが脈を打つ。
少し乱暴に横倒しにされ、片足だけを抱え上げられて、いっそう深く貫かれた。
「佐和子、佐和子――っ」
彼女の名前を呼ぶ幸太郎の声にも、もう余裕が感じられない。
幸太郎の動きが早く、肌のぶつかり合う音が激しくなる。
「あ、ああっ、…だめ、んあぁぁっ……」
佐和子の眦に涙が滲む。
まるで、身体の中からバラバラにされてしまいそうだった。
「苦しいか?」
幸太郎の問いに、佐和子は首を振る。
涙が出るのは、辛いからでも苦しいからでもなかった。
ただ、泣きたくなるほどに愛しすぎるのだ、彼が。
「ああ、くそっ、……もう持たねえっ」
求め合うままに重なる唇。
舌を絡め、唾液を交歓し、何かを与えそしてまた奪うような激しいキスを交す。
佐和子は幸太郎の背中に腕を回し、弓のように背中を撓らせた。
「あぅ、あ、…あぁぁあ!」
次の瞬間、佐和子は大きく身体を震わせて痙攣した。
強烈に収縮する彼女の中で、幸太郎もほぼ同時に果てていた。
ふうっと大きく息を吐いて、幸太郎が佐和子のとなりに倒れ込む。
目が合って、どちらともなく笑みが零れた。
「激しいんだから、もう……身体が持たないよ、バカ」
「よく言うな、そんな風にされるのが好きなのはどこのどいつだっての」
こつん、と額に額がぶつけられる。
幸太郎は、佐和子の鼻の頭に軽く口づけた。
愛し合ったあとの甘い余韻に浸りながら、静かに時が過ぎていく。
2人きりの、幸福な時間。
お互いに、他には誰も、何も要らないと思えるくらいの。
「一生、俺のものでいてくれ、佐和子」
「うん……」
視線が絡まる。
幸太郎の手が、佐和子の髪をゆっくりと梳く。
心地良さそうに目を閉じた佐和子を、幸太郎はもう1度強く抱きしめた。
「ホント、自分がこんな台詞、口にするとは思ってなかったけどな」
言いながら、幸太郎は苦笑気味に少し口元を歪めた。
けれど、瞳は優しいままだ。
「俺は、もう……お前を手離せない、なぜなら――」
幸太郎は、そこで照れ臭そうに笑って言い澱んだ。
それは、次に続く台詞が、あまりにも「御崎幸太郎」らしくなかったからかも知れない。
「佐和子……お前は、俺にとって」
――唯ひとり、最愛の女性(ひと)だから。
つづく


2012年12月17日 beloved トラックバック:- コメント:0