SCOOP! =3=
ひどく切ない夢を見た。
知らないうちに枕が涙でびしょ濡れになるほど悲しかったはずなのに、内容はちっとも思い出せないで、もやもやとした気持ちのまま学校に行った。
明らかに、昨夜の蒼とのことが影響していた。
2時間目が終わったころ、携帯が震えて、メールの着信を知らせてきた。
蒼かと思ったら送信者は桂木さんで、話がしたいみたいなことが書いてあったから、昼休みにあたしの方から電話をした。
2度目のコールが鳴り終わらないうちに電話に出た桂木さんは、ああ良かったとホッとしたような口調で言った。
「あの、もしかして何かあったんですか、蒼に」
桂木さんから連絡してくること自体が珍しく、あたしは少し心配になって尋ねる。
その言い方が、よほど深刻そうに聞こえたのかも知れない、電話口で苦笑された。
『大丈夫、蒼ならぴんぴんしているよ。ただ、機嫌がひどく悪くてね、何があったと聞きたいのも、実は俺の方なんだ』
「…………」
『理由を聞いても答えないし、藍ちゃんに何か愚痴っていないかと思って』
「ああ……それって、あたしのせいだと思います」
『藍ちゃんの?』
「はい、たぶん……」
それから、あたしは昨夜のことをかいつまんで話した。
桂木さんは、時おり相槌を打ちながら、黙ってそれを聞いていた。
「……そのうちに、もうこんな風に隠れてこそこそ会うのは嫌だ、あたしたちが付き合ってること、公表したいって言い出して……」
『それで君、まさか賛成してしまったのではないだろうね?』
「とんでもありません、蒼自身のためにならないことに賛成はできないし、桂木さんだって許してくれるわけないって言いました。そしたら蒼、急に難しい顔をして黙り込んでしまって、そのまま……」
『そうか……』
桂木さんは、電話の向こうで考え込んだ。
しばらく沈黙が続き、もしかすると、あたしの対応は間違っていたんじゃないかと不安になりはじめたころになって、桂木さんはやっと再び口を開いた。
『わかった、そういうことなら、俺の方からも少しやつと話をしてみるよ』
「そうしてください、お願いします」
『わざわざ電話をもらってすまなかったね、それじゃ』
そう言って、桂木さんは電話を切った。
そのあと、桂木さんから再び連絡がくることはなく、きっと上手く蒼を説得できたのだろうと、あたしは楽観的に考えた。
夜になってから、昨日みたいな別れ方をしたままじゃ後味が悪いし、もし蒼があたしに対して臍を曲げているのならきちんと謝りたいと思って、あたしは蒼にメールを打った。
蒼からは、すぐに返事が来た。
別に気にしていないし、自分も大人気ない態度を取って悪かったと思ってる、というような内容だった。
とりあえず、蒼がもう怒っていないことがわかって安心した。
心配することなんて、何もない。
なんだかんだ言っても、あたしと蒼はちゃんと繋がってる。
だって、好きなんだもの。
臭い言い方かも知れないけど、2人の間に愛さえあれば、越えられないものなんてないんだから。
ねえ、そうだよね?
あなたも、そう思うよね、蒼?
あたしはベッドに仰向けに寝転がって、天井に貼られた蒼のポスターを眺め、その唇にそっとキスする真似をした。
ポスターの中の蒼は、相変わらず爽やかな笑顔でニッコリと笑っていた。
このとき、あたしが事態をもっと先読みできていたら、流れは変わっていただろうか。
たぶん、変わらなかっただろう。
あの騒動は、起こるべくして起こったのだ、きっと。
つづく


2008年03月02日 SCOOP! トラックバック:- コメント:-