Precious Delicious =9=
お昼休みの教室。
あたしと友紀ちゃんは、机をくっつけてランチの最中。
「うっそぉ、とうとうやっちゃったんだ?!」
あたしが戦果の報告をすると、友紀ちゃんは、お弁当のウィンナをフォークに刺したまま、驚いたような声を出した。
「ち、ちょっと、友紀ちゃん、…声、大きいよ」
「あ、ごめん……で、どうだったの、彼の反応は?」
友紀ちゃんは慌てて声を潜めるけれど、その瞳はなぜか輝いている。
ていうか……、そんな好奇心が見え見えの顔で、どうだったなんて聞かれても。
「うん、まあ……それなりに」
「それなりにって何よ、今さらごまかすことないでしょ、一応は相談に乗ってあげたんだし、結果報告は当然の義務だよ?」
「う、うん……」
確かに、相談に乗ってもらったことは感謝してる。
あのとき、友紀ちゃんが背中を押してくれなかったら、未だに迷ってたかも知れないし。
「最初のうちは、やっぱ無理とか思ったけど、腹を括るっていうか、思い切って始めちゃったら、ね……」
「やってる最中、咽たり、吐きそうになったりしなかった?」
「うん、それは大丈夫だった」
「そっか~、うん、よく頑張ったね、偉い偉い」
友紀ちゃんは、小さい子をあやすみたいに、あたしの頭をよしよしと撫でた。
「藍がそんだけ頑張ったなら、すごく喜んだんじゃない、彼も?」
「うん、たぶん……」
「たぶん? 何それ、変なとこで謙遜しないの」
「えへへ~、まあね」
曖昧に笑い返しながら、あたしは、あのあとのことを思い出していた。
たっぷりお返しをする、と言った彼の言葉通り、あのあとの蒼は、なんていうか……本当にすごかった。
彼の指で、舌で、唇で、何度イカされてしまっただろう。
蒼にも、あたしが立て続けに達していたことはわかっていたのに違いない。
それでも、彼はあたしの足の間から顔を上げようとはしなかった。
快楽の波は途切れずに押し寄せて、身体を震わせ、下肢を痙攣させて、あたしは白い頂点を繰り返し、見た。
それは気持ちイイの域をとっくに通り越して、息苦しささえ覚えた。
最後には意識も朦朧として、泣きながらもう許してと懇願したような気がする。
それでやっと、蒼は身体を起こしてにやりと笑ったのだ。
これ以上されたら壊れちゃうって思って、背中がぞくっとしたのを覚えてる。
でも、それは恐怖からくる戦慄とかではなくて、たぶん、期待。
もしかすると、あたしは本気で、蒼になら壊されても良いと思っていたのかも知れない。
そのあとは、もうしっかりと復活していた彼のものに貫かれて、そして――。
「ちょっとぉ、何ひとりでニヤニヤしてんの、思い出し笑いは気持ち悪いよ?」
再び、友紀ちゃんに声をかけられて我に返った。
「あ、ごめん……」
思わず顔を赤らめたあたしに、友紀ちゃんはうふふと思わせぶりに笑った。
そして、あたしの頬っぺたを人差し指の先でちょんとつつく。
「でも、良かったね、万事上手くいって」
「あれで良かった、のかなあ……」
「だって、お互いの気持ちも再確認できたんでしょう、良かったじゃん?」
気持ちの、再確認……。
……そうか、うん。
あんなことしながら、あたし……彼のこと、すごく愛しいって思った。
やっぱり大好きだって思った。
可愛いものでもないし、美味しくもないけど、でも、誰にもあげたくないって思った。
独り占めしたい、あたしだけのものにしたいって思った。
頭のてっぺんから足の先まで全部、愛してるって思った。
そして蒼も、そんなあたしのこと、大好きだって言ってくれた。
それで、いいじゃん。
充分すぎるくらいじゃん。
こうやって少しずつ、ステップアップしていけたらいい。
「また何か、奥手な藍ちゃんが迷ったときには、この友紀様に相談しなさい」
友紀ちゃんは、そう言って胸を叩く真似をした。
あたしは笑って、お願いします、と頭を下げた。
とっても
Precious で
Delocious なこの恋のおかげで。
あたしも、また少しオトナに近づけたかな。
=fin=


2008年01月13日 Precious Delicious トラックバック:- コメント:-