Precious Delicious =5=
そっと頬に触れる、くすぐったいような優しい感触で目が覚める。
まだ眠い目をゆるゆると開けると、あたしを見下ろす蒼の顔がすぐ側にあった。
彼はベッドに片肘を突いて頭を支え、もう片方の手であたしの髪を梳いていた。
「おはよう、藍」
「ん、…蒼……」
どちらともなく軽く唇を合わせたあと、蒼はきれいな歯並びを覗かせて少し笑う。
「いつもなら1分でも長く寝ていたいって思うけど、今朝だけは早く目が覚めて良かった」
「……どうして?」
「久しぶりに、ゆっくり藍の寝顔を眺められたからね」
「え…、やだぁ、恥ずかしい……」
慌てて顔を覆おうとした両手は、逆に剥がされてシーツに押し付けられる。
「恥ずかしがることないだろ、可愛いんだから」
「嘘だもん……」
「嘘じゃない、まったく、寝息までが愛くるしく思えてしまうんだから、我ながら救い難いよ」
そう言って、もう1度、キス。
今度は、さっきよりも少し深いやつ。
口づけたまま、蒼が、ゆっくりとあたしに圧しかかる。
時おり洩れる吐息の熱さに、身体のどこかがきゅんとなる。
「昨夜は最高に疲れて眠気が勝っていたとはいえ、ひどく惜しいことをした気分だね」
「なに、が?」
蒼の手は器用に動いて、あたしのパジャマのボタンを次々と外していく。
ブラのカップを押し上げてふくらみに直接手が触れたとき、思わず小さく声が出た。
「こんなに美味そうなご馳走が目の前にあったのに、食い逃すなんて」
「あ、…ん、蒼……」
「今から、しっかりいただくからね?」
言いながら、蒼は先端の蕾をきゅっと摘まむ。
痛みと、すぐあとから湧き上がってくる痺れにも似た気持ちよさ。
窓に引かれたカーテンに遮られて、外の光は部屋の中まで届かないけど、今がまだ早朝であろうくらいの察しはつく。
こんな時間に、と躊躇う反面、あたしはもう、彼を欲しがり始めていた。
「でも…、大丈夫なの、お仕事は……?」
「10時には桂木さんが迎えに来る、つまり、それまでゆっくり愛し合うくらいの時間はあるってこと、目一杯有効に使うよ」
昨夜の分も含めてね、と蒼は唇の端を上げ、意味ありげな笑いを見せた。
そして、抗う間もなく全裸にされる。
「や、だめ……ちょっと待って、」
「そんなこと言って、この状態で俺が待てるとでも思ってるの」
蒼は、身体の位置を少しずらして、あたしの胸に顔を埋めた。
赤く色づいた蕾を舌先でちろりと舐め上げられて、背中がぞくぞくする。
「あ、お、…お願い、ちょっとだけ……」
「時間稼ぎのつもりなら、無駄な抵抗だけど?」
「ち、違う、そういう意味じゃ、なくて……」
そこで、やっと何かに感づいたのか、蒼は顔を上げてあたしを見た。
あたしはたぶん、真っ赤になっていたと思う。
蒼は少し怪訝そうな表情になって、言葉の続きを待つように首を傾げた。
「今日は、あたしが、したいの……あたしが、蒼に……」
「……したいって、何を」
「だから、……蒼がいつもしてくれるみたいに、あたしが、蒼のを……」
その途端、眇められていた蒼の目が、驚いたように見開かれた。
「君……それ、本気で言ってるの?」
「こんなこと、冗談なんかで言えないもん……」
蒼は、何を思ったか、しばらくあたしの顔をじっと覗き込み、やがて頷いた。
「OK、わかった」
起き上がった彼は、着ていたものを文字通り脱ぎ捨てるようにして放ると、ベッドのヘッドボードに背中を預け、足を投げ出して座った。
「おいで、藍……」
そう言って、あたしに向かって手を差し出した彼の瞳が、いつもよりもずっと艶めいて見えたのは、絶対に、あたしの気のせいなんかじゃない。
つづく


2008年01月02日 Precious Delicious トラックバック:- コメント:-