Precious Delicious =2=
「正直言うとさ、美味しくもなんともないよ、あんなの」
友紀ちゃんは、膝に載せていた雑誌をパタンと閉じると、ベッドに肘をついてあたしを見上げてきた。
「変な形だし、大きくなったのなんか血管とか浮いちゃってグロいしさ、なんていうの、そこだけ別の生き物みたいで怖いじゃん」
「そ、…そう、かな?」
友紀ちゃんは、あたしも知ってて当然って感じで言ったけど、実際に男の人のアレをまじまじと見たのなんて、蒼と、ヒガシさんのお店に行った帰りの車中、あの1度きりだ。
あれ以来、蒼は自分のソレを触ってとか握ってとか、たまに言うようになった。
蒼いわく、あたしの手のひらの感触は彼のものにとても馴染むらしい。
彼が気持ちイイって言ってくれるのは嬉しいし、あたしも彼のものに触れることが嫌ではないけど、でも、やっぱり友紀ちゃんの言う通り、アレってちょっと怖い形をしていて、あたしはいまだにその部分を真っ直ぐ見ることができない。
「美味しいとか不味いとかいう前にさ、かなりキモいよ、アレは」
そう言って、友紀ちゃんは露骨に顔を顰めて見せた。
「でも……甲斐くんにはしてあげるんでしょう、その……」
「フェラ?」
「う、うん……」
甲斐くんはあたしの元彼で、いろいろ紆余曲折あったあと、今は友紀ちゃんと付き合ってる。
友紀ちゃんは、自分が横恋慕したせいであたしと甲斐くんが別れたと思っているみたいだけど、実のところはそうじゃない。
それがひとつのきっかけにはなったかも知れないけど、本をただせばあたしの心変わりが原因だ。
友紀ちゃんはあたしとの話の中で甲斐くんの名前が出るといまだに申し訳なさそうな顔をするけど、あたしは友紀ちゃんのことを恨んではいないし、むしろ2人が上手くいってくれれば良いと思ってる。
たぶん、それは2人に対するあたしの罪滅ぼしにもなるだろうから。
「確かにねえ……可愛らしいものじゃないんだけど、でも、アレも彼の一部だから」
「彼の、一部?」
「うん、そう。瞳とか、唇とか、指とかと同じように、彼の身体の一部分でしょ?」
「ああ……うん、そう言われてみれば、そうだけど」
「好きな人をね、形作ってる一部だって、思うからかな」
友紀ちゃんは、キレイにマニキュアの塗られた指先を組み合わせて、ちょっと俯いた。
手のひらを握るのは、言葉を選びながら話をするときの彼女の癖だ。
「瞳を見つめたい、唇にキスしたい、手に触れたいと思うのと同じように、アレもね、どんなに醜悪に見えても、好きな人なら愛しく感じちゃうの」
「愛しく……」
友紀ちゃんの言葉の意味を考えながら、あたしはまた蒼のことを思い出した。
自分で言うのも恥ずかしいけど、蒼はあたしのアソコに口をつけるのが好きで、えっちのときは必ずと言っていいほどそうする。
そんなところ、汚いからだめだよってあたしが言っても絶対に止めてくれないし、藍の身体で汚いところなんてひとつもないよって笑って、もっともっとそれを続ける。
藍のことが好きだから、身体の隅々までを自分のものにしたいんだ、とも言う。
友紀ちゃんも今、同じようなことを言った。
「汚いとか、気持ち悪いとか、思わない?」
「他の人のなら思うだろうけど、彼のは全然? むしろ、あたしが気持ちよくしてあげるって思っちゃう。してあげるとすごく満足そうな声とか出すし、そういうの聞くとなんか嬉しい」
ああ、また……。
蒼も、藍が気持ちよくなるの見ると自分も嬉しい、みたいなことを言っていたっけ。
「……そういうものなのかなあ」
あたしは、なんだか不安になった。
あたしが、蒼のものをさほど愛しいと思えないのは、あたしの愛情が足りないから?
蒼のはホントに太くて長くて大きくて、あんなものを口に入れられると思うとちょっと怖い。
「藍はさァ、なんで彼氏にフェラしてあげたいと思ったわけ?」
あたしが黙り込んだのを見て、友紀ちゃんが聞いてきた。
「なんでかなあ……よくわかんない……」
蒼はいつもあたしを気持ちよくしてくれる。
だから、あたしも彼を気持ちよくしてあげたい。
そう思ったことは確かだ。
それで、ティーン向けの雑誌とかインターネットとかチラッと見て、男の人はそれをされるとすごく喜ぶ、みたいなことが書いてあって、ああそれならあたしもって。
「彼は、藍にクンニしてくれる?」
「ク、…何?」
聞き返したあたしに、友紀ちゃんは呆れて嘆息する。
「もう、藍は鈍いなあ。男の人が女の人のアソコを口で愛撫すること、クンニって言うの」
「え…、あ、そうなんだ……」
「そうなんです、…で、してくれる?」
他人に聞かれて正直に答えるのは恥ずかしいような気もしたけど、今さら白とぼけても意味がないし、相手は他の誰でもない友紀ちゃんだ。
あたしは思い切ってうんと頷いた。
「彼は、そういうときなんて言う? 藍のココはキレイだとか、美味しいとか言わない?」
「……言う」
「藍だって、女の子のアソコなんて決してキレイなものでも、美味しいものでもないって思うでしょう? でも、彼は嫌な顔しないで、ていうかむしろ喜んでするでしょう?」
「……うん、そうみたい」
友紀ちゃんは、そこで満足そうににっこりして、言った。
「藍の彼、きっと藍のことすご~く好きなんだね」
え……?
どうしてそうなるの?
つづく


2007年12月28日 Precious Delicious トラックバック:- コメント:-