弥生ちゃんのヒメゴト =64=
縺れるように倒れ込んだのは、大きなベッドの上。
広くて、ふわふわして、微かに圭介さんのにおいがする。
すかさず、あたしの手首を押さえつける両手。
圧し掛かってくる広い肩幅。
眉を顰めながら、あたしを見下ろす表情。
ああ、もうだめ。
あたしは、今すぐにでも彼が欲しい。
焦りさえ感じるほど、彼が欲しくてたまらない。
「もう1回、言ってごらん」
「……何をですか」
「圭介さんが、死んじゃうのはいやって」
ほんの少し、笑いを含んだ声で彼が言う。
「面白がらないでください、あたし、真面目なのに」
「俺だって真面目だよ、だから、ね?」
ほら早く、と促される。
「圭介さんが、死んじゃうのは、……いや」
あたしは、彼を見つめたまま、さっきと同じ台詞を繰り返す。
なぜか、上ずった震え声しか出ない。
すると、圭介さんはちっと小さく舌打ちをした。
「ああ堪んねえ」
言いながら、天井を向いて嘆息する。
次に視線をあたしに戻したとき、彼の口元には艶っぽい笑みが浮かんでいた。
「今、聞こえたろ?」
「何が?」
「……俺の、理性の箍が外れる音」
言うなり、圭介さんはあたしの首に噛みつくようなキスをした。
着ているものも、文字通り、奪うようにして剥される。
こういうことを何度もしたわけじゃないけど、こんなに急いた感じの圭介さんを見るのははじめてだ。
彼はいつも、欲望のまま突っ走るというより、あたしの様子を見ながら、あたしの表情や声や反応の変化を確かめながら、そしてそれを楽しみながら、する。
なのに、今日は。
「あ、……っ」
大きな手のひらが、胸を鷲掴みにする。
硬くなった蕾を指先で摘まみ、捻じり、先端を軽く掻く。
もう、それだけで頭真っ白。
自分は胸が弱い、なんて圭介さんとこうするまで知らなかったことだ。
「あっ、あン、や……」
「……声、抑えとけ」
あたしは、はっとして手の甲を口に当てる。
思ったよりも大きな声が出てしまっていただろうか。
風間さんは、実子の部屋には近づきませんなんて言ってたけど、こんなときの声を、たまたまでも誰かに聞かれてしまったら具合が悪い。
と思ったら、圭介さんは全然違うことを言った。
「俺が、我慢できなくなるから」
「……?」
言われた意味がわからなくて彼を見返すと、困ったような顔になる。
「ああ、くそっ」
なんなんだよ、とまた忌々しげに舌打ちし、あたしの首の下に片腕を通して肩を抱く。
「歯止めなんて効かなくなるって言ってんだよ」
「歯止め?」
「もういやって言うほど啼かせちまうことになる」
こうやって、ともう片方の手が、脚の間に忍び込む。
「あ、ちょ、…やだ、そんな……」
すぐに敏感な芽を探り当てて、指腹を押し付ける。
そのとき、ぬるっとした感触があって、無性に恥ずかしくなった。
「や、だめ……ソコは、だ、」
ソコに触れられると、途端に切なくなってしまう。
身体を捩ろうとしても、肩をがっちり掴まれていて動けない。
そうしたまま、少しずつ追い詰められていく。
圭介さんは、相変わらずその最中ほとんど喋らずに、あたしを観察してる。
それでも、その指の動きは、いつもより少し性急で、ほんのちょっとだけ荒っぽい。
ああ、どうして。
それが、なんだか、すごく。
「んぅ、う、…んふぅ」
あたしは、自分の拳を口に当てて、声が出てしまうのを堪えた。
圭介さんは、そんなあたしの顎に手を添えて彼の方を向かせ、唇にキスをした。
言いたいことがあるのに、それを無理に押し込めるようなキスだ。
そんな風に感じて、あたしのココロは小さく疼く。
言いたいことや思ったことをはっきりと口に出されたら、うんうんそうだよねと納得することはできるけど、胸のどこかがきゅんとなったりはしない。
恋をすると、言葉を使わなくても、瞳や仕草で気持ちを伝えることができるようになるのかも知れない。
ずけずけと本音を言ってしまうのが性分のあたしだけど、こういうのも、なんだか良い。
圭介さんが、ゆっくりと上半身を起こし、あたしに覆い被さる。
彼の一部は大きく、硬くなっていて、彼もあたしを欲しいのだとわかる。
少し照れたように、彼が笑った。
つづく


2017年02月21日 弥生ちゃんのヒメゴト トラックバック:0 コメント:0