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ありふれた日常で30のお題
Precious Things のキャラ総出演でお届けする30のお題。
ゆっくりのんびり更新予定。エロはあったりなかったりで。
お話はすべて、掌編~中編の読みきりになっていますので、お気軽にどうぞ。
性描写を含む作品には

がついています。未成年の方・嫌悪を感じる方は、ご注意ください。
■ 君のいる場所
1 2
3

東京を離れて地方ロケ中の蒼は、彼の元に届けられた荷物にビックリ!
サイト時代、某年暑中お見舞いとして期間限定配布。
■ 失いたくないもの
1 2 3 いつまでも、こうして一緒に時を重ねていけたら……。
佐和子の20歳の誕生日、幸太郎が彼女に贈ったものは?
サイト時代、某サイト様への1周年お祝いとして献上。
■ 白いレースのカーテン
1 2 幸太郎&佐和子の新婚エピソード。
プレパパ・幸太郎のデレデレぶりをお楽しみください。
サイト時代、某サイト様への1周年お祝いとして献上。
■ 読みかけの本
1 2
3 
体育の授業をサボって教室で本を読んでいた柚月と、そんな彼女の前に現れた太陽。
そこで2人はお約束の……。
サイト時代、3,000,000HIT お礼として期間限定配布していたもの。
■ 渡しそびれた手紙
1 2 3 4 5 6
7 泣く子も黙るやくざの圭介がはじめて恋をした相手は、16歳の女子高生。
付き合って10か月の記念日に、何を贈ったらいいかと悪友たちに相談したが……。
■ がらくたの山
1 年末に大掃除をして、出てきたがらくたの山。
小さいころの思い出の品とか、大事にしていたおもちゃとか。愛美&トオル先輩。
サイト時代、某年お年賀として公開していたもの。
■ 存在理由の追及
1 2 3 4 朝、目が覚めたら、そこは思いもよらない場所。
戸惑う佐和子は……。これは夢なの、それとも?
サイト時代、某サイト様との相互リンク記念として献上。
■ 教室の喧騒
1 2 あれで隠してるつもりなんだから、傍で見てるこっちが困っちゃう。
あの日、太陽と柚月が消えたあとの、愛美ちゃんの呟き。
「あの日」の方を先に読みたい人は
こちら から。ただしエロ風味。
■ 幸せな時間
1 2 
花火大会の夜、とある小さな田舎町へやって来た翼&美穂先生。
リクエストの多かった8月のウェブ拍手の続編。
拍手の方を先に読みたい人は
こちら から。
■ 大好きなうた
1 2 3
4
5
6 
あたしだって、好きでこんなことしてるわけじゃない。
だけど、あの日待ち合わせに現れた思いもよらないその人は……。
某サイト様からのリクエスト、柚月の親友エリカちゃんのお話。
■ 美味しいご飯
1 2 とある日曜日の直ちゃんと美桜。らぶあま仕様(エロなし)。
サイト時代、某サイト様への1周年お祝いとして献上。
■ 午前十時のお茶会
1 2 3 
女子大生のグループ相手にお抹茶を点てることになった優介さんと
それがちょっと気に入らない星香さん。
某年暑中お見舞いとして期間限定配布。
■ 未知への憧れ
1 2 「弥生ちゃんのひとりごと・2」完結記念。
圭介さんの目から見た弥生ちゃんって、どんな女の子?
あの日の遊園地デートを、圭介さん視点で。
見慣れた風景 / 自室の扉 /
君のいる場所 / お気に入りの服
幸せな時間 /
午前十時のお茶会 /
がらくたの山 / 破れた写真
美味しいご飯 / 書きかけの詩 /
読みかけの本 / つけっぱなしのテレビ
卒業アルバム / 雨漏りの音 /
渡しそびれた手紙 /
大好きなうた教室の喧騒 / 行き交う人の足音 / 小さな自然 /
白いレースのカーテン単純な欲求 / 妄想癖 /
未知への憧れ / 痴話喧嘩
存在理由の追求 / 偽りの笑顔 / 孤独な涙 / 電話のベル
失いたくないもの / ありふれた日常


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2016年08月04日 ありふれた日常で30のお題 トラックバック:0 コメント:0
未知への憧れ =1=
いや、なんて言うか……驚いた。
俺の家が、関東総和会の創家だと聞いて、顔色ひとつ変えなかった女は彼女が初めてだ。
最初は村上興産のネームバリューに惹かれて寄ってくる女たちも、関東総和会の名前が出た途端、絶句するか蒼白になるかが常だった。
まあ、まだ16歳の高校生が、関東総和会の何たるかを知らなくても無理はないし、やくざという稼業にしたって、彼女のような年頃にとっては、映画やドラマの中でしか見聞きしたことのない縁遠い世界の話なのだろう。
それにしても、だ。
怖くないのかと聞いた俺に、「怖くなんかない、圭介さんは良い人だもの」なんて返してきた。
でも、俺の指が頬に触れたとき、微かに肩を震わせたことも、俺はちゃんと気づいてた。
だから、ちょっと悪戯心を出して、嚇すようなことを言ってみた。
それなのに、彼女は怯えるどころか俺の目をまっすぐ見つめて、自分はまだ子供かも知れないけど、圭介さんのことをもっと教えて欲しいと思う、みたいなことを言った。
正直、突然そんなことを言われて俺は戸惑った。
彼女が、どうして俺のことなんて知りたいと思うのか、見当もつかなかった。
否、……見当もつかなかったというのは、正しくないかも知れない。
幸太郎から、遊園地でダブルデートをしないかと誘われたのは昨夜のことだ。
あの幸太郎が、遊園地デート? はっきり言って、自分の耳を疑った。
よくよく聞いてみれば、やつが今ハマリにハマってる可愛い佐和子ちゃんのお友達とやらを、俺に紹介したいらしいってな話で。
佐和子ちゃんが確か16歳、その友達ってことは同年代なんだろう。
2人の熱々振りを見せつけられた上に、ガキのお守りなんて冗談じゃねえ、と1度は断ろうかとも思ったが、その日はたまたま俺も予定がなかったし、暇つぶしがてら幸太郎を冷やかしに行くのもいいかと考えて、その誘いに乗った。
10歳も年下の女の子に熱を上げているくせに、幸太郎は、俺が「ロリコン」だとやつをからかうとムキになって否定する。それが面白い。
そして今日、待ち合わせの場所で、彼女を紹介された。
立花弥生。
第一印象は、「小さい」だった。
俺の上背があるからかも知れないが、並ぶとまさに俺が彼女を見下ろす感じ。
茶色くてちょっと癖のある猫っ毛の、てっぺんの旋毛が可愛らしかった。
それから、握手をすると、俺の手のひらにすっぽりと隠れてしまうくらいの小さい手。
佐和子ちゃんもそうだけど、彼女たちの年代の女の子は、成人した「女」とは明らかに異質の、独特の雰囲気を持っていると思う。
弥生って名前が日本的で良いと俺が褒めると、彼女は頬を染めてはにかんだ。
時間が経つにつれ、彼女が俺に好意じみたものを抱き始めているのはわかった。
話しかけると、返ってくる答えはしどろもどろ。
ふとした拍子に身体が触れ合おうものなら、顔を真っ赤にして慌てるのだから、気づくなと言う方が無理だ。
確かに、俺は彼女の周りにいる同年代の男どもとは違っているだろう。
だから、彼女が俺に寄せる好意も、恋ではなく……そういった、いわゆる少女たちが大人の男に抱く憧れのようなものなのかも知れなかったが。
途中、真っ暗な中を走り回るジェットコースターに乗って、幸太郎が気分を悪くした。
やつとは長い付き合いだが、やつの遊園地嫌いは仲間内でも有名だった。
何しろ、コーヒーカップでも酔うというのだから当然だろう。
それを、佐和子ちゃんの前で格好つけようとして無理して乗って、その結果があれだ。
まったく、あんまり情けなくて苦笑が洩れた。
せっかくだから、自分のことは気にせず楽しんで来いと言われて、女の子2人が消えてしまうと、幸太郎はほうっと大きく嘆息した。
「バカじゃねえの、大の男がジェットコースターで酔うな、アホ」
「うるせえな、余計なお世話だ、放っとけ」
幸太郎は、佐和子ちゃんのハンカチを額に当てながら俺を睨んだ。
「そんなに良い格好してえのかよ、佐和子ちゃんの前で」
「佐和子の喜ぶ顔が見たかっただけだよ。あいつには、いつも我慢ばっかりさせちまってるからな」
「だからって、自分が失神しかけるくらい無理するこたぁねえだろう」
俺は、タバコを1本取り出して火をつけ、幸太郎に銜えさせてやった。
やつは美味そうにそれを吸い、それから長々と煙を吐いた。
「大したことじゃねえよ。佐和子のためなら、どんな無理だってするさ」
「冷血漢が聞いて呆れるよ、小便臭いガキに骨抜きにされちまってるんだからな」
そんな俺の嫌味にも、幸太郎は笑みを見せた。
「ガキだからいいのかもな」
「ああ?」
「佐和子は……言ってみりゃ、まっさらな白布みてえなもんだ。染められるのを、今か今かと待ってる。俺のこの手次第で、どんな色にも染まる。何度でも染め替えて、自分好みの色に変えていく……そんなことができるのも、佐和子が何も知らねえ子供だからだ」
佐和子ちゃんなら、そうだろうと思う。
本当に、彼女は今どきこんな子がいるのかと呆れるほど、素直で欲がない。
2人の出会いは、彼女を拾った幸太郎にとっても、やつに拾われた佐和子ちゃんにとっても、幸せだったと言わざるを得ないだろう。
そのくらい、一緒にいるときの2人はいつでも幸福そうに見えた。
「それが褒められたことじゃねえことぐらい、わかってるよ。でも俺は、世間の常識よりは佐和子を選ぶ。後ろ指差されたって、構いやしねえ」
短くなったタバコを踵で踏みつけて、幸太郎ははっきりとそう言い切った。
少なくとも、俺の知る幸太郎は間違っても女にのめり込むタイプではなかったし、どちらかと言えば冷めていて、恋愛に対しても穿った見方をするやつだった。
そんな幸太郎に、ここまで言わせてしまう佐和子ちゃんは、やっぱりすごいと思う。
そして、やつをここまで変えてしまった恋というものの存在に、興味が湧いた。
つづく


2016年08月04日 ありふれた日常で30のお題 トラックバック:0 コメント:0
未知への憧れ =2=
「あの弥生ちゃんって子は、どうなんだろうな」
「弥生? まあ、ちっとばかし生意気なところはあるが、根はいいやつなんじゃねえの。佐和子もずいぶんと頼りにしてるみてえだし」
言いながら、幸太郎はにやりと俺の顔を窺い見た。
「何だよ、圭介……気になるのか?」
「……別に」
「粋がってみても、やっぱり子供だよな。弥生のやつ、お前に話しかけられる度にびくびくして真っ赤になってんだぜ、気がついてんだろ?」
「子供に懐かれるほど優しい男じゃねえよ」
「俺もそう思ってたさ、佐和子に会うまではな」
幸太郎は、良く晴れた空を見上げて大きく伸びをした。
「でも、好きな女のためなら優しくなれちまう。そうしようって意識しなくても、自然と優しい気持ちになっちまう。愛しいと思う気持ちがそうさせるんだろうな――」
向こうから、佐和子ちゃんたちが戻ってくるのが見えて、幸太郎は言葉を切った。
「佐和子が、最後の締めくくりにはゴンドラに乗りたいんだと。俺たちは2人で乗せてもらうから、お前らも、…まあ、よろしくやってくれ」
幸太郎は、そう言って俺の肩を軽く叩いた。
佐和子ちゃんに向かって、優しい笑みを浮かべる幸太郎。
こいつでも、こんな顔をするんだな、と思った。
そして、俺と彼女は一緒のゴンドラに乗って、話は冒頭のシーンへと繋がるわけだ。
どうして、俺なんかのことが知りたいのかと聞いた俺に、彼女は少し迷ってから
「圭介さんのことが、好きだから、…だと思います」
と、はっきり答えた。
半ば想像していたとはいえ、直接彼女の口から聞けばやはり戸惑った。
どう転んでも堅気とは言えない俺と、まだ高校生の彼女。
しかも、2人の間には10歳の年の差がある。
釣り合うわけがないと思えた。
たとえ自分が、そんな彼女に惹かれつつあったとしても――。
そこまで考えて、はっとした。
俺は、彼女に惹かれている――?
こんな、子供みたいな少女に?
「本気かよ……」
俺は、思わず自分に向かって呟いた。
それに対して、彼女がムキになったように「本気ですっ」なんて言い返してくるものだから、無性に可笑しくなっちまって。
「やっぱり子供だなあ、怖いもの知らずは恐ろしい」
「バカにしてるんですか、それ」
そう言って、心持ち頬を膨らませた表情が可愛かった。
「いや? 佐和子ちゃんに惹かれた幸太郎の気持ちが、ちょっとばかりわかったような気がするって意味かな」
そうだ、多分……幸太郎の言っていた意味も、今なら少し理解できる。
彼女の頭をよしよしと撫でながら、俺は言った。
「あとで後悔しても、俺は知らないからね」
そのときの、彼女の呆けたような顔と言ったら。自分から告白しておいて、半信半疑な様子で「あたし、圭介さんの彼女になれるんですか?」ときた。
俺の周りにいる女たち、恋愛慣れした大人の女なら、こうはいかない。
もっともっと……彼女の反応が見てみたいと思った。
「君の無鉄砲さに敬意を表して。それに俺も、君のこと知りたくなってきたしね」
俺はやくざだ、俺なんかと付き合った女は苦労するに決まってるって、ちゃんと教えてやったのに、それでも俺を好きだなんて言う彼女は、無鉄砲に違いない。
よろしくね、と差し出した俺の手に重ねられた彼女の手は、やっぱりとても小さかった。
本当は、ここで抱きしめてキスのひとつでもしてやることはできた。
なのに、俺がそれを躊躇ったのは、彼女がその手と同じようにとても小さな存在に思えたから。そして、がらにもなくその小さなものを大事にしてやりたいと思ったからだ。
「圭介さん」
助手席から、彼女に声をかけられて、俺は物思いから我にかえった。
俺は、自分の車で彼女を家の近所まで送って来ていた。
「今日は本当にありがとうございました。すごく楽しかったです」
「俺も楽しかったよ」
「また、…会えます?」
「もちろん、いつでも電話をしてくれればいいし、俺の方からもするし」
「迷惑じゃ、ないですか」
上目遣いで、縋るように聞いてくる。
そんな顔で見つめられたら、たとえ迷惑だと思ったとしてもそうは言えない。
「全然? 遠慮しないで、好きなときに電話してきていいよ」
「わかりました。じゃあ、また……」
ドアを開けて車を降りた彼女は、車体をぐるりと回って運転席の側に立った。
「おやすみなさい」
おやすみ、と返そうとして、別の言葉が口をついて出た。
「明日、一緒に飯でも食おうか」
「え?」
彼女の顔が、一瞬にして明るくなった。
俺は、そんな彼女の表情の変化を、少しだけ眩しく思う。
「学校が終わったら電話をして。それからのことは、そのときに決めよう」
「は、はいっ、わかりました!」
彼女は嬉しそうに頷くと、手を振って去っていった。
ふと目をやったサイドミラーに映った自分の顔が、だらしなくにやけているのに気がついて、誰も見ちゃいないのに、俺は慌てて表情を引き締めた。
俺ももう、幸太郎のことを笑えない。
まったく住む世界の違う2人。
だからこそ、彼女は、俺の知らなかったことをいろいろと教えてくれそうな気がする。
未知のものに憧れているのは、俺の方かも知れなかった。
= fin =


2016年08月05日 ありふれた日常で30のお題 トラックバック:0 コメント:0