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ill-matched ? 番外(季節イベント・キリリクなど)
こちらは、幸太郎×佐和子番外です。
サイト時代の季節イベントやキリリクを集めています。
お話はすべて、掌編~中編の読みきりになっていますので、お気軽にどうぞ。
作品の一部に性描写があります(

)。未成年の方・嫌悪を感じる方は、ご注意ください。
■ 弥生ちゃんのひとりごと・2
1 2 3 4 5 6 7 8 9 
弥生ちゃんにも春が来た?
(
1,000,000打キリリク)
■
dotage 1 この瞬間がいつまでも続けばいい、この写真のように……。(佐和子視点)
(
900,000打キリリク)
■
for heaven's sake 1 2 3 4
5 
何年経っても決して色褪せない、あなたを想うこの気持ちは。(佐和子視点)
(
884,422打キリリク)
■
stormy night 1 2 3 幸太郎と関口女史、嵐で一晩、出先に足止め。
(
800,000打キリリク)
■
SCREWBALL 1 2 3 4 5
6 
大嫌いなんて本心じゃない。でも、素直に「ごめん」とも言えなくて。(佐和子視点)
(
585,858打キリリク)
■ 初詣
1 2 ふたりが神様の前で誓ったことは……。
(某年お年賀短編)
■
First date 1 2 年末の大掃除の最中、佐和子のバッグから出てきたものは……。(幸太郎視点)
(
555,555打キリリク)
■ はじめてのおつかい
1 2 3 4 佐和子が、初めて「
MISAKI」の本社ビルを訪れて……。
(
400,000打キリリク)
■ 弥生ちゃんのひとりごと
1 2 3 4 5 佐和子の親友・弥生ちゃん視点から見た佐和子と幸太郎。
(
333,333打キリリク)
■
petite pet 1 2 3 4 偶然、覗いたペットショップで、白い仔犬を見つけた。
(
222,222打キリリク)


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2012年12月01日 ill-matched ? 番外 トラックバック:- コメント:0
petite pet =1=
明るい夏の陽光が、広いリビングに射し込んでいる。
静かな空間に、エアコンの音だけが低く響いている。
リビングの中ほどに置かれたソファに、ゆったりと腰を下ろす幸太郎と、その足元に寄りかかって、膝の上で雑誌を広げている佐和子。
仲の良い恋人たちの幸せな日常のひとコマ……遅めの朝食を済ませたあと、2人してなんとなく寛いでいるところだ。
平日の朝だというのに、なぜかのんびりしている幸太郎。
実は2日ほど出張に行っており、昨夜遅く戻ったばかり。
今日は代休を取っていた。
離れていたのはたったの2日とはいえ、(文字通りの意味で)結ばれてからまだ日の浅いこの2人、再会すれば燃え上がってしまうのが若い恋人たちの常というもので……昨晩の彼らもまた例外ではない。
そんな中、先に口を開いたのは幸太郎だった。
「なあ、佐和子……」
「う~ん?」
呼ばれた佐和子は、読んでいる雑誌から眼を上げずに生返事をする。
それが気に入らなかったのか、幸太郎は、彼女の頭を軽く小突いた。
「お前、さっきから何読んでんだ、やけに真剣だな?」
「ああ、これ? お料理の本だよ」
佐和子は、ぱらりと表紙を返して見せる。
「料理の本? お前、充分マシなもん作れるじゃねえか。今さらそんなもん読む必要もねえだろうが。おらおら、止めだ止めだ」
幸太郎が、膝の上から本を取り上げようとすると、佐和子はちょっとむくれた様子で振り返った。
「もぉ、人がせっかく真面目に読んでるのにっ」
「どうせ読むなら、もっと女っぽいもん読めよ。よくあるだろ、『魅せるメイク』とか『この秋の一押しコーディネート』とか『今流行のこのブランド』とかよ。お前、色気なさ過ぎ」
料理の本でも、充分女っぽいと思うが……。
勝手な好みを押し付けようとする幸太郎に対して、佐和子はぷっと頬を膨らませる。
途端に、最近ただでさえ締まりのない幸太郎の頬がさらに緩む。
実はこの佐和子の拗ねたような顔が、幸太郎は大のお気に入りだったりするのだ。
この顔が見たくて、わざと佐和子が怒るようなことをしたり言ったりすることさえある。
御崎幸太郎、26歳……なんとも、大人気ない男である。
「ふん、だ。あたし、そういうのに興味ないの」
「何拗ねてんだよ」
ニヤニヤしながら、佐和子の頬を人差し指の先で突付く。
佐和子はさらに膨れっ面をする。
完全に幸太郎の愛玩具状態の彼女だが、実際、幸太郎は佐和子が可愛くて堪らない。
「だって、あたしの作るお料理なんて質素な家庭料理ばっかりでしょ? 幸太郎は、お坊ちゃま育ちだからやっぱり舌が肥えてるだろうし……もっと美味しいもの食べて欲しいんだもん」
「佐和子、お前なぁ……」
惚れた女にこんなことを言われた日にゃ、幸太郎でなくてもメロメロになるだろう。
果たして、幸太郎はこれ以上もうニヤけようがないというくらいニヤけた顔になると、身体を屈めて、足元に座る佐和子を背中から抱きしめた。
「あんまり可愛いこと言ってんじゃねえよ」
「……なんで?」
「朝っぱらから勃っちまうだろうが……それとも、また昨夜みたいに苛めて欲しいのか?」
「やだ、もう……幸太郎のえっち」
幸太郎が、佐和子の顎を支えて上向かせ、その唇を吸う。
佐和子は小さく鼻を鳴らしながらそれに応える。
「佐和子は、意地悪でえっちな俺でも好きなんだろ?」
「う、ふぅん……大好き……」
勝手にしろ……いや、つまるところ、なんともお似合いな2人ではあった……。
「……それにしてもなぁ」
思う存分いちゃいちゃとじゃれ合った後で、幸太郎がまた口を開く。
「なぁに?」
「退屈しねえか、1日中、家ん中にいるってのもよ」
「別に? あたしはいつもこんな感じだし」
「気晴らしにどっか出掛けてえとか思ったりしねえの」
幸太郎が訊くと、佐和子は彼の胸にぎゅっと額を押し付けた。
「思わないよ……あたし、ここでじっと幸太郎を待っているのが幸せなの」
佐和子の言葉に、幸太郎は少し呆れたように溜息をつく。
それから、彼女の柔らかい髪をくしゃくしゃと撫でて、言った。
「忠犬ハチ公みてえな女だな、お前は」
「あたしには、この部屋が世界の全てでもいいの。幸太郎がいてくれれば、他には何も欲しいものなんかないんだもん」
幸太郎は、しばらくじっと慈愛の篭った眼で佐和子を見下ろしていたが、不意に何かを思いついたように、佐和子の身体を自分から引き離した。
「仕度しろ、出掛けるぞ」
「え、何なの、急に?」
「座敷犬でもたまには散歩に連れてってやんなきゃストレス溜まるらしいからな。どっか行きてえところがあったら言ってみろ。どこだって連れてってやるぞ」
それを聞いて、佐和子は少し戸惑った。
幼い頃から貧しい家庭に育ったせいか、自分の要求を主張するのは、彼女が最も苦手とすることだ。
けれど、幸太郎が自分のことを「犬扱い」しながらも、それが照れ隠しのためだというのはわかっていたし、普段はとても忙しい幸太郎が、たまの休みに一緒に出掛けようと言ってくれたことはとても嬉しかったから、佐和子は「うん」と頷いた。
「本当にどこでもいいの?」
「ああ、本当だ。どこに行きたい? 海か、山か、どっか遠くまでドライブでもするか? なんならショッピングでもいいぞ、何でも欲しいもの買ってやる」
「じゃあね、お散歩したい」
「は? 散歩?」
気が抜けたように聞き返す幸太郎に、佐和子はニッコリと笑いかける。
「うん。表通りを腕組んで歩いてね、ウィンドウショッピングしたり、お洒落なカフェでお茶したり、雑貨屋さんを覗いたりするの……ダメ?」
正直、幸太郎は「なんだ、その中坊みてえなデートは」と言いかけて、佐和子があんまりキラキラした瞳で見上げてくるものだから、それを慌てて飲み込んだ。
こんな風に上目遣いで「ダメ?」と可愛く訊かれて、「ダメだ」と無碍に言い返せる男はまずいない。
もちろん、幸太郎も例外ではない。
鼻の下をデレデレに伸ばしながら、「しょうがねえなあ、付き合ってやるよ」なんて言う幸太郎の顔は、まさに恋の渦中にある男のそれだった。
つづく


2012年12月01日 ill-matched ? 番外 トラックバック:- コメント:0
petite pet =2=
マンションからの日の照りつける外へ出て、幸太郎は顔を顰めながら、自分の愛車であるジャガーが停めてある駐車場へ向かおうとしたが、ぐいと佐和子に腕を引っぱられた。
「今日は車じゃないの、こっち」
「オイオイ、冗談よせよ」
このクソ暑い中、ウロウロ歩き回ったら脳みそが溶けちまう、せめて目的地までは車で行こうぜ、という幸太郎の言い分はあっさりと無視された。
「今日はあたしの好きなようにさせてくれるんでしょう?」
上背のある自分の腕にぶら下がるようにしながら、ニコニコとご機嫌の佐和子に、嘆息しながらも口元が緩むのを止められない幸太郎。
……この男、かなり重症のようだ。
静かな住宅街を歩いて駅まで行き、地下鉄に乗る。
この前、電車に乗ったのがいつだったか思い出すこともできない幸太郎は、切符を買うのにも手間取る始末で、佐和子は感心したような呆れたような顔で言う。
「幸太郎って、本当にお坊ちゃまなんだねえ」
「悪かったな。地下鉄なんて七面倒くせえもの、誰が好き好んで乗るかよ」
「そんな大人気ないこと言わないの。電車通勤してるサラリーマンに失礼でしょ。たまには庶民の生活に触れてみるのもいいと思ったら」
そんな佐和子の言い分を笑って聞き流せる自分に、俺も随分と丸くなっちまったもんだ、と苦笑交じりで幸太郎は思った。
これが以前の幸太郎だったら、そして目の前にいるのが佐和子でなかったら、相手が女とはいえ1発張られて血を見ていたかも知れない。
車内に、高校生くらいのカップルが乗っていた。
扉の前にピッタリと寄り添って立ち、指と指を絡めて手を繋いでいる。
顔を寄せて小さく囁き合いながら、時々、辺りもはばからず軽くキスを交わす。
見ているこちらが恥ずかしくなるくらいの睦まじさだが、佐和子はなぜか彼らから眼が離せない。
頬を赤らめながらもチラチラと窺い見ていると、幸太郎にわき腹を突付かれた。
「何羨ましそうに見てんだよ」
「そっ、そんなことないもんっ」
「嘘つけ。今にも涎垂らしそうな顔してたぞ」
「してないもんっ。ただ、お似合いだなって思ってただけっ」
幸太郎は、気のない様子で「ふん」と鼻を鳴らした。
「ガキのくせに色気づきやがって。親の顔が見てえよな」
「仲良くていいじゃない。すごく幸せそうだよ、あの2人」
佐和子の肩を抱いていた幸太郎の手が、そっと首筋をなぞり耳朶を摘む。
それから、くすぐったそうに首をすくめた佐和子の顔を覗き込むようにして、こう囁いた。
「お前も、あんな風にして欲しいの?」
「えっ……」
「いかにも『俺たち、付き合ってます、えっちもしてます』って感じで抱き合ってよ、人前でいちゃいちゃしたりキスしたりして欲しいのかってこと」
「そんなこと……思ってないもん」
本当は、ほんのちょっとだけ思ったけど。
「正直に言えよ。佐和子がして欲しいなら、俺にはお安い御用だぜ? なんなら、この車両にいる奴等が全員引くくらいの、濃厚なやつを見せ付けてやってもいいけどな」
なあ、どうする? 少し意地悪な口調で幸太郎が言う。
片方の耳を指で弄ばれ、もう片方の耳にはあと息を吹きかけられて、佐和子の身体から力が抜ける。
「や、だァ……幸太郎の意地悪……」
「かわいい声出しちゃって……耳だけで感じてんのか?」
「幸太郎のバカ……もぉ、やめて……」
「ふっ……やっぱ可愛いわ、お前」
真っ赤になった佐和子のとなりで、幸太郎はくつくつと笑う。
からかわれてる、子供扱いされてる……幸太郎が、どこまで本気で自分のことを想ってくれているのかを図りかね、佐和子は戸惑い、少しだけ悲しくもなった。
平日とはいえ、通勤ラッシュの過ぎたこの時間、ホームも電車の中もさほど混雑してはいなかったが、佐和子はずっと誰かしらの視線を感じていた。
となりを歩く幸太郎に向けられる、女の人たちの視線。
賞賛と、羨望と、嫉妬が混ざった強い視線……最後のひとつは、自分に対してのものかも知れないけど、と佐和子は考えた。
確かに、幸太郎は魅力的だ。
細身の長身に端整なマスク、大人の男としての落ち着きと貫禄、そして何より自分に自信があるこその傲慢さ。
今まで、何人の女性がこの素敵な人に恋をしたのだろうと思う。
あたしがもっと大人だったら、もっと綺麗だったら、幸太郎に釣り合うような大人の女性だったら、他人の視線になんか動じずに堂々としていられるはずなのに。
「幸太郎……」
「うん?」
少し光沢のあるブルーのシャツに、濃いグレーのスラックス。
普段着なのに、どうしてこの人が着るとこんなに様になるんだろう、と佐和子は少し圧倒される。
「幸太郎、やっぱりかっこいいね」
「ああ? 何を今さら、そんな当たり前のこと言ってんだ。俺様はイイ男に決まってんだろ」
こういう自信過剰なところも、幸太郎だと嫌味じゃないのがすごいと思う。
「う、うん……そうだよね……ごめん」
「別に謝ることじゃねえだろ、バカ」
俺だって、誰彼にでも誉められて嬉しいわけじゃねえ、そう言って、幸太郎は佐和子の額を軽く叩いた。
「幸太郎」
「今度は何だ?」
「あのね……手、繋いでくれる?」
こうして並んで、腕を組んで歩けるのも、もちろんすごく嬉しい。
でも、今はなんだか無理してぶら下がってるみたいで惨めな気持ちになる。
だから、しっかりと手を繋いで欲しいと佐和子は思った。
「んなことわざわざ聞くなよ……ほら」
おずおずと差し出された佐和子の手を取って、指と指を絡める。
まるで、さっき電車の中で見た高校生の恋人同士のように。
「恋人繋ぎって言うんだろ?」
幸太郎は、少し照れたように、空いている方の手で鼻の横を掻いた。
「うん……」
「なんか、掌に汗かいてねえか?」
「ご、ごめんっ……ちょっと緊張しちゃったの。気持ち悪かったら、無理しなくていいからっ」
慌てて解こうとした佐和子の手を、幸太郎は笑いながら握りなおす。
「誰もそんなこと言ってねえだろ」
「だって……」
「それに俺、佐和子のそういう初心なとこ、すげえ好きだぜ」
「え……?」
「え、じゃねえよ、この天然娘。あんまり小っ恥ずかしいこと人前で言わせんな」
行くぞ、と少し乱暴に佐和子の手を引いて、幸太郎が歩き出す。
佐和子は、そんな幸太郎にちょっと引き摺られるようになりながら、それでも思い切り嬉しそうな顔をして、彼の後をちょこちょこと付いて行く。
こういう2人を見ていると、幸太郎が佐和子を「犬扱い」する気持ちが分かるような気がする、というのは置いといて、まあ、とにかく「世界は2人のために」状態の恋人たちに余計な茶々は不要だろう。
つづく


2012年12月01日 ill-matched ? 番外 トラックバック:- コメント:0